カブス球場のツタはなぜ植えられた?消える打球の特別ルールと危険な秘密
シカゴ・カブスの本拠地「リグレー・フィールド」中継を観戦していて、外野フェンス一面を覆い尽くす鮮やかな緑のツタに目を奪われた経験はないでしょうか。現代のMLBスタジアムが最新鋭の開閉式ドームや巨大LEDビジョン、ハイテク衝撃吸収フェンスを競い合うなか、1世紀以上の歴史を誇るこの球場だけは、まるで時が止まったかのようなクラシカルな美観を頑なに保ち続けています。
しかし、あの美しいツタの奥には、グラウンド上のドラマを一瞬で変えてしまう驚きの「特別ルール(グラウンドルール)」や、外野手が激突すれば選手生命に関わる「隠された壁の危険性」など、一般にはあまり知られていない数々の秘密が眠っています。なぜ近代スタジアムの常識に逆らってツタが植えられ、現在まで維持されているのか。その歴史的背景から守備陣を震え上がらせるプレーの真相まで、現場取材の知見と公式記録をもとに余すところなく解き明かしていきます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:ツタは1937年、球界の奇才ビル・ヴィークが「殺風景なレンガ壁を美しく彩り、観客を魅了するボールパークにする」ために植えたのが始まり。
- 要点2:ツタに打球が潜り込んで見失った場合、外野手が即座に「両手を挙げてアピール」すればエンタイトル二塁打が宣告される独自のグラウンドルールが存在する。
- 要点3:ツタの裏側はクッションのない本物の「硬いレンガ壁」であり、初夏の新緑から秋の紅葉まで季節ごとに姿を変えるリグレー・フィールド最大の象徴である。
【発祥の真相】リグレー・フィールドの外野フェンスにツタが植えられた理由と歴史
MLB全30球団の本拠地のなかで、ボストン・レッドソックスのフェンウェイ・パーク(1912年開場)に次ぎ、全米で2番目に古い1914年開場の歴史を持つリグレー・フィールド。この聖地にツタが持ち込まれたのは、開場から23年が経過した1937年9月のことでした。
仕掛け人は、当時カブスのプロモーション担当を務めていた若干23歳のビル・ヴィーク(Bill Veeck Jr.)です。後にクリーブランド・インディアンスなどのオーナーを歴任し、スコアボードでの花火打ち上げやファンの度肝を抜く数々の奇抜なファンサービスを仕掛けた「球界のプロモーション王」として知られる人物です。
当時、カブスは外野スタンドの大規模な改修工事を行っており、外野フェンスとして頑丈なレンガ壁が新設されました。しかし、完成したフェンスはむき出しの赤レンガで、どこか寒々しく殺風景な印象を与えていたといいます。ヴィークは、父の友人であり当時の球団オーナーだったガム王フィリップ・K・リグレーの承認を取り付け、インディアナポリスのマイナーリーグ球場(ペリー・スタジアム)で見かけた美しいツタの壁にインスピレーションを得て、外野壁一面にツタを植樹する計画を電撃的に実行しました。
ヴィーク自らが夜間に植え付け作業を行ったとされるそのツタは、シカゴの厳しい寒風を乗り越えてレンガの隙間にしっかりと根を張り巡らせ、わずか数年で外野フェンス全体を覆い尽くしました。「球場を単なる競技場ではなく、市民が憩う緑豊かなガーデンにしたい」という若き日のヴィークの情熱が、今日世界中のベースボールファンに愛されるアイコンを生み出したのです。

【衝撃のグラウンドルール】打球がツタに入った場合どうなる?エンタイトル二塁打の判定基準
リグレー・フィールドで試合を見るうえで、絶対に知っておかなければならないのが外野フェンス独自の特別ルール(グラウンドルール)です。外野深くへと放たれた鋭い長打が、茂ったツタの奥へと吸い込まれ、一瞬にしてボールが消滅してしまう珍現象がシーズン中に幾度となく発生します。
MLBの公式グラウンドルールにおいて、リグレー・フィールドのツタに関して定められている決定的な取り決めは以下の通りです。
「打球がツタの中に入り込んで見失った(ロストした)場合、外野手はボールを追いかけるのをやめ、即座に両手を高く挙げて審判にアピールしなければならない。審判団がロストボールと確認した場合、ボールデッドとなり打者走者には二塁までの進塁権が与えられる(エンタイトル二塁打)」
ここで極めて重要になるのが、「外野手が一切ボールに触れず、即座に手を挙げること」という鉄則です。もし外野手が慌ててツタの中に手を突っ込み、ボールを探し出そうとしたり、ツタからボールを引き抜いて投げようとしたりした瞬間、審判は「インプレー(プレー続行)」と判定します。
過去には、外野手が欲を出してツタをまさぐっている間に打者走者が一気にダイヤモンドを一周し、ランニングホームランにしてしまったケースや、逆にボールが見えているのに「見失ったふり」をして両手を挙げ、審判に厳しく見破られてインプレーのまま失点を重ねた苦い実例も存在します。ツタの中に打球が消えたコンマ数秒の間、外野手には「探すべきか、諦めて両手を挙げるべきか」という極限の心理戦と判断力が突きつけられるのです。
【見た目の美しさと潜む罠】ツタの裏にある「レンガ壁の危険性」と外野手の心理
テレビ画面越しに見ると、外野フェンスのツタはふんわりとした柔らかなグリーンのクッションのように映るかもしれません。しかし、現地取材に訪れた記者や実際にフェンス際を守る選手たちが口を揃えて語るのは、「あのフェンスは完全な凶器になり得る」という冷徹な事実です。
現在のMLBスタジアムでは、外野フェンスに厚さ10〜15センチメートル以上の高密度ウレタンクッションパッドを装着することが義務付けられており、激突時の衝撃を和らげるフェイルセーフが張り巡らされています。ところが、リグレー・フィールドの外野フェンスは、1937年に組まれた本物の赤レンガ壁そのものです。ツタの葉がどれほど生い茂っていようと、その厚みはわずか数センチメートルに過ぎず、衝撃を吸収する能力は皆無と言って差し支えありません。
フェンス際の大飛球を追う外野手は、目測を誤ってフルスピードで激突すれば、頭蓋骨骨折や肩の脱臼、膝の靭帯断裂といった選手生命に関わる重傷を負うリスクを常に背負っています。歴代の名外野手たちも、「リグレーのアウトフィールドを守る時は、頭の片隅で常にレンガの硬さを意識しながら背後の距離感を測らなければならない」と証言しています。美しい景観の裏には、外野手に極度の緊張感を強いる過酷な構造的トラップが潜んでいるのです。

【春夏秋で激変】カブス本拠地のツタの種類と季節による紅葉の美しさ
リグレー・フィールドのツタは、1年を通じて同じ姿をしているわけではありません。植えられているツタの植物学的な品種は、主にボストン・アイビー(Boston Ivy / 日本名:ツタ)と、常緑性のイングリッシュ・アイビー(English Ivy / 日本名:セイヨウキヅタ)のハイブリッド構成となっています。
メインを占めるボストン・アイビーは落葉樹であるため、季節の移り変わりとともにグラウンドの表情をドラマチックに変化させます。
【季節ごとの表情の移り変わり】
- 春(4月〜5月上旬の開幕期):厳しい冬を越えたばかりのツタは葉を落としており、枯れ枝のような蔓(つる)の間から冷たい赤レンガの地肌がそのまま露出しています。ボールがツタに隠れることはまずありません。
- 初夏〜夏(6月〜8月の盛夏期):気温の上昇とともに葉が一気に生い茂り、フェンス全体が鮮烈な深緑の壁へと変貌します。ツタの厚みが最も増すこの時期こそ、打球が壁の中にすっぽりと消え去る「ロストボール」の多発シーズンとなります。
- 秋(9月〜10月のペナント最終盤・ポストシーズン):気温の低下とともに葉が緑から黄色、そして燃えるような深紅へと色づきます。カブスが熾烈な優勝争いを繰り広げる秋のゲームでは、夕日に照らされた見事な紅葉がスタジアムを幻想的な美しさで包み込みます。
このように、訪れる時期によって全く異なるスタジアムの情緒を楽しめる点も、リグレー・フィールドが「ベースボールの生きた博物館」と称賛される大きな理由です。
【データ比較】MLB伝統球場フェンスの構造・安全性・グラウンドルールの違い
リグレー・フィールドの特異性をより深く浮き彫りにするため、MLB屈指の歴史を持つボストン・レッドソックスの「フェンウェイ・パーク」、および21世紀の最新基準で設計された標準的な近代ボールパークとの構造・ルール比較を以下の表にまとめました。
| 比較項目 | シカゴ・カブス (リグレー・フィールド) | ボストン・レッドソックス (フェンウェイ・パーク) | MLB標準・最新球場 (2000年代以降建設) |
|---|---|---|---|
| フェンスの主素材 | 赤レンガ壁 + 生きたツタ | 木製およびコンクリート壁 (グリーン・モンスター) | 金属フレーム + 特殊合板 |
| 緩衝材(パッド) | なし(レンガがそのまま露出) | 下部に一部装着/壁面は硬質 | 全面に厚手ウレタン装着 (安全性最優先設計) |
| 独自のグラウンドルール | ツタに入りロストした打球は 両手アピールで二塁打 | 手動スコアボードの隙間等に ボールが入れば二塁打 | 基本ルールのみ (フェンス越え=HR等) |
| 外野手の激突リスク | 極めて高い (硬いレンガへの直接衝撃) | 高い (巨大な壁との距離感難) | 低い (衝撃吸収パッドが保護) |
| 歴史的建造物指定 | シカゴ市ランドマーク指定 全米歴史登録財(2020年) | 全米歴史登録財(2012年) | なし(商業エンタメ施設) |
データを見ても明らかなように、現代野球においてリグレー・フィールドのフェンス設計は完全に「例外中の例外」です。通常であれば選手会からの強い安全要求によってパッド装着が義務化されるはずですが、後述する歴史的建造物としての法的な保護や、ファンと球団が守り抜いてきた文化的な誇りが、この特異な環境を今なお成立させています。

【実態検証と誤解の是正】現場の証言から紐解くツタにまつわる都市伝説とリアル
インターネット上の掲示板やSNSでは、リグレー・フィールドのツタに関してさまざまな憶測や都市伝説が飛び交っています。「ボールを探せば何個も昔の球が出てくるのではないか?」「なぜ選手会は危険なレンガをパッドに変えさせないのか?」といった疑問について、現場の取材事実から真相を検証します。
誤解1:「ツタの中には歴代のロストボールが何十個も埋まっている?」
ファンの間で最も人気のある都市伝説ですが、結論から言えば現在においてボールが何年も放置されていることはありません。球場のグラウンドキーパー(園芸・芝生管理スタッフ)は、試合前やロード遠征期間中にフェンスのツタを極めて綿密に剪定・メンテナンスしています。蔓が過剰に伸びてレンガの目地を破壊しないよう手入れを行う際、奥に入り込んだ打球や練習球はすべて回収されています。ただし、激しい打球がレンガのわずかな隙間にガッチリと挟まり、試合後の点検でようやく発見されたという珍事は実際に何度も報告されています。
誤解2:「危険なのにラバーパッドを貼らないのは球団の怠慢?」
選手への危険性が明白であるにもかかわらずレンガがそのまま残されている理由は、単なるノスタルジーではありません。リグレー・フィールドは2004年にシカゴ市の歴史的建造物(ランドマーク)に指定され、さらに2020年にはアメリカ合衆国内務省から「全米歴史登録財(National Historic Landmark)」に認定されました。
この公的な指定により、外野のレンガ壁とツタは「歴史的価値を持つ球場の不可欠な一部」として法的に保護されており、外観や構造を損なうような大規模なパッドの貼り付けや撤去工事が厳格に規制されています。球団はフェンス手前のウォーニングゾーンの土の感触を明確に変えるなど、足元の感覚で外野手がフェンス接近を察知できるよう最大限の工夫を凝らして安全性を担保しています。
【プロの結論】伝統保存と安全管理の境界線|観戦時に見逃せないチェックポイント
スポーツ施設における「安全性の追求」と「歴史的景観の保存」は、常にトレードオフの緊張関係にあります。全米の多くのスタジアムが利便性と収益性を求めて近代的な複合ドームへと建て替えられるなか、シカゴ市民とMLB機構は、不便さや危険性と隣り合わせのリグレー・フィールドを「生きた文化遺産」として受け継ぐ道を選びました。
この背景を理解したうえで試合を観戦すると、外野手のプレー一つひとつの重みが劇的に変わって見えてきます。外野手が背走しながらウォーニングゾーンへ足を踏み入れた瞬間、打球だけでなく「背後にあるレンガ壁への恐怖」とどう戦っているのか。そして打球がツタへ飛び込んだ刹那、外野手が迷わず両手を突き上げるか、それともボールを捕り出そうとするのか。その張り詰めた一瞬の判断こそ、リグレー・フィールド観戦の醍醐味と言えます。
【カブス 球場 ツタ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ボールがツタに入った時、外野手がボールを取り出して送球したらどうなりますか?
A1:外野手がツタに手を入れてボールを探したり、取り出して投げようとした場合、審判はボールデッドにせず「インプレー(プレー続行)」と判定します。その間に打者や走者は次の塁へ進塁できるため、送球が間に合わなければランニングホームランや大量失点につながるリスクがあります。
Q2:ツタの葉がない4月の開幕当初でも、グラウンドルールは適用されますか?
A2:はい、ルール自体はシーズンを通じて有効です。ただし、4月は落葉しておりレンガの壁と蔓しか存在しないため、物理的にボールが隠れること自体が極めて稀です。基本的には葉が生い茂る6月以降に適用されるケースがほとんどです。
Q3:なぜ他の球場はこのようにツタを植えないのですか?
A3:最大の理由は外野手の安全性への配慮です。近年の球場設計では選手の衝突衝撃を逃がすソフトフェンスの設置が最優先されるため、硬い壁にツタを這わせる設計は採用されません。また、ツタの育成や病害虫対策、冬場の冷害管理などスタジアム維持に莫大な園芸コストがかかることも理由の一つです。
Q4:ツタを間近で見るためのおすすめの座席や観戦方法はありますか?
A4:外野席(ブリーチャーシート:Bleachers)の前方列を確保するのが最も迫力を体感できます。また、試合前に行われる公式の球場ツアーに参加すれば、グラウンドレベルに降りてフェンス際まで近づき、歴史あるレンガとツタの質感を目の前でじっくり見学することが可能です。
まとめ:歴史的ランドマークが放つ唯一無二の魅力と現地観戦の心得
シカゴ・カブスの本拠地リグレー・フィールドを彩る外野フェンスのツタは、単なる球場の装飾を超え、1世紀に及ぶメジャーリーグの歴史と情熱が凝縮された象徴です。1937年にビル・ヴィークのアイデアから始まったこの試みは、独特の「エンタイトル二塁打ルール」やレンガ壁の緊迫感とともに、今なお世界中のベースボールファンを魅了し続けています。
日本人メジャーリーガーの活躍によって日本からの注目度も一段と高まるなか、中継映像を眺める際は、外野フェンスの色彩の変化や打球が飛び込んだ瞬間の守備陣の仕草にぜひ注目してみてください。春の無骨なレンガ肌から、真夏の鮮やかな深緑、そしてペナントレースを彩る秋の紅葉まで、移ろいゆくツタの表情とともに繰り広げられるドラマは、他のどの近代スタジアムでも味わえない特別な野球体験を届けてくれるはずです。 (出典: カブス 球場 ツタ(Yahoo!ニュース))